2017年6月に提供を開始した、グリーグループの株式会社ポケラボ(以下、ポケラボ)と株式会社スクウェア・エニックスの共同開発による、ダークファンタジーRPG『SINoALICE ーシノアリスー(以下、シノアリス)』。
「ライブラリ」と呼ばれる世界を舞台に、物語の登場人物「キャラクターズ」が自身の作者を蘇らせるため戦い合う世界観が人気を博していましたが、2024年1月15日に完全クローズを迎えました。2023年10月のクローズ発表時には、X(旧Twitter)のトレンドで1位になるなどゲーム業界で大きな話題に。クローズを直前に控えた2023年12月、ポケラボの主要メンバーに集まってもらい、『シノアリス』に込めた想いやエンディングに向けたこだわりの仕掛けなどについて語っていただきました。
※各人のコメントはサービス終了前のものです
前田:株式会社ポケラボ / 『シノアリス』プロデューサー
2012年にポケラボ入社。リリース時より『シノアリス』のプロデューサーを務める。
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三浦:株式会社ポケラボ / 『シノアリス』アートディレクター
2012年にポケラボ入社。ポケラボでは複数タイトルのアートディレクターやメインキャラクターデザインを担当。
清水:株式会社ポケラボ / 『シノアリス』マーケティングマネージャー
グリーに入社後ゲーム事業のアプリ審査業務に従事した後、2021年よりポケラボにジョイン。『シノアリス』のマーケティングを一貫して担当。
堀:株式会社ポケラボ / 『シノアリス』プランナー マネージャー
2019年ポケラボ入社。『シノアリス』の運営プランナーリーダーを経て、プランナーマネージャーとして企画・運営全般を担当。
松村:株式会社ポケラボ / 『シノアリス』クリエイティブプランナー
2019年ポケラボ入社。コーポレート部門の事業管理領域を担当した後、『シノアリス』のプランナーへキャリアチェンジし、主に季節イベントの企画やメインストーリーのディレクションを担当。
ユーザーの存在を身近に感じながら、常に期待を上回るサービスを提供
ーー『シノアリス』が幕を閉じようとしていますが、率直に今の想いをお聞かせいただけますか?
前田:『シノアリス』が6年半も続いたのは、支持してくれるユーザーの皆さんがいたからこそです。また、開発当初から構想していたエンディングをようやく世に出す時が来たか、というのが率直な気持ちです。
三浦:エンディングが最初から決まっていて、ここまで華々しくそれをつくりきったソーシャルゲームはこれまでに聞いたことがありません。だからこそ、ユーザーの皆さんにどんな反応をもらえるかワクワクしているところです。
清水:終了の告知をした2023年10月26日、想像以上にSNS等での反響がありました。当日限定で「シノアリスの死に様を拡散スルのデス!キャンペーン」を行ったところ、リポスト数が38,470にも及び、魔晶石も38,470個配布するという前代未聞の事態になりました(笑)。また当日は長時間に渡ってX(旧Twitter)のトレンド一位も獲得し、メディアにも取り上げていただき、今もなお注目され、愛されているゲームだということを改めて実感しています。
堀:終わらせたくないという寂しい気持ちと、エンディングを体験してほしいというワクワクした気持ちがせめぎ合っています。ユーザーの皆さんの反応を見ると寂しさが一気に押し寄せてきそう……。『シノアリス』は特に、周年イベントや年末のキャンペーンなどを通じてユーザーの皆さんと直接コミュニケーションを取ることが多いタイトルでしたからね。
松村:僕の立場では、今もまだメインストーリー最終エピソード「ヨクボウ篇」の制作の渦中です。ですので、『シノアリス』が終わりを迎えるという実感はまだ湧いていない、というのが本音ですね。
ーー印象に残っている出来事を教えていただけますか?
前田:リリース直後、想定の何十倍もの同時接続によってサーバーがダウンしたことです。サーバー接続を一気に改修する必要があったので、ポケラボだけでなくグリーグループ全体を巻き込んで緊急メンテナンスを行いました。何十人というエンジニアで24時間ローテーションを組み、通常は2〜3カ月かかるところを1週間で直し切りました。ポケラボだけでなくグリーグループで開発できることの強みを実感でき、ありがたい体制だなと感じた出来事でした。僕自身、この時は睡眠時間も風呂に入る時間も削って、とにかく必死に対応したことを昨日のことのように覚えています(苦笑)。
松村:リリース直後の緊急メンテナンスを題材に物語が進む「シノアリス篇」では、リアル感を演出するために実際のオフィスでPVを撮影するなど、通常のゲーム制作では経験できない業務を体験できて面白かったですね。尖った施策が多いシノアリスですが、ポケラボならではのチャレンジ精神があるからできたのかなと今では思っています。
三浦:アートを担当する僕の思い出は、キャラクターの絵の量産に苦戦したことです。キャラクターデザイナーのジノさんが描き上げてくれた1枚のイラストから、さまざまなポーズを描き起こすのですが、この作業の難易度が非常に高く、対応できる制作会社も少ない、リリースまで時間もない、という中で、どうしたら間に合うんだろう……と途方に暮れたことを覚えています。
清水:私は異動してすぐの右も左も分からない状況下で“生前葬”というぶっとんだテーマの4周年キャンペーンを任されたことが特に思い出深いです。ただでさえ時間がないのに、チーム内でも全く知見がなかったデスメタルのバーチャルライブに挑戦するなど、初めての経験が盛りだくさんで、まさしく『シノアリス』の洗礼を受けた瞬間です。
堀:僕はユーザーの皆さんとのコミュニケーションですね。『シノアリス』はユーザーの皆さんと運営側の距離がとても近く、一緒にゲームをプレイしたり会話したりすることも多いので、温かく接してくださる皆さんのために面白いサービスを提供したいと常に模索してきました。
お祭りのようにエンディングに向けて盛り上がる仕掛けで最後まで走りきる
ーーエンディングに向けた『シノアリス』ならではの仕掛けにも、驚きと感動の声をいただきました。
松村:最終章である『ヨクボウ篇7章』はギルドメンバー全員で同時に挑戦し、共に戦ってきたメンバーと一緒に自分たちの手で『シノアリス』を終わらせるという演出になっています。これまで一緒にゲームをプレイしてくれた“仲間”が、大事な存在である『シノアリス』を一緒に終わらせる“共犯者”のような側面を持つようになります。唯一無二の体験を共にしたかけがえのない仲間になってくれていればうれしいです。
前田:ソーシャルゲームはユーザーの皆さんと一緒に盛り上げていくもので、つくり手のもの、というよりはユーザーの皆さんのものという認識があります。だからこそ、ゲームをユーザー自身の手で終わらせてもらいたい、という考えが強くありました。
ーーそのアイデアは開発当初から決まっていたことなのですか?
前田:原作・クリエイティブディレクターのヨコオタロウさんが構想段階から考えていたことです。通常、シナリオのエンディングまでやりきるソーシャルゲームはほとんどない中、『シノアリス』は最初からシナリオを最後までやり切るという考えのもと世界観を体感できるエンディングを準備していました。この点においても、『シノアリス』は他にはない非常に特徴的なゲームだと言えます。サービス終了に対して会社として大きな予算をかける判断はポケラボならではですし、とても感謝しています。
三浦:開発がスタートした8年前、ヨコオさんが「『シノアリス』は、ガチャの上にラスボスがいる」と話していて、当時は「どういうことなのか……」と不思議に思っていました。
前田:ラスボスは最初からガチャの画面の上に存在していたんですよね。ガチャを引くたびにユーザーの皆さんの“ヨクボウ”がガチャの上に溜まっていき、それがラスボスとして登場します。
三浦:8年を経て構想していたエンディングを実装できること自体が素晴らしいですし、ぜひヨコオさんの世界観に触れて欲しいです。アートとしてはエンディングのために新しいイラストを描き下ろしています。『シノアリス』に登場するキャラクターは量産が難しいものばかりですが、最後までこだわってつくり込んでいるので運営側の熱量を感じてもらえるとうれしいです。
エンディングのために描き下ろしたイラストの一例
最初からガチャ画面に存在していたラスボス
前田:最終章「ヨクボウ篇」では、くるみ割り人形を除く15あるキャラクターの中から自分の推しを選んでゲームを進める章があるのですが、15キャラ分のストーリーを準備してボイスもエンディング用に収録しました。加えて、最後の戦いが終わった後のエンドロール中にチャット機能を用いてギルドメンバーで会話する時間を設けました。最後の挨拶をするも良し、無言で余韻に浸るも良し、思い出を語るも良し、ソロギルドで挑むも良しと、ギルドそれぞれの終わり方を迎えてもらえるように考えた演出です。
堀:このエンディングはゲーム1本をつくるくらいのボリューム感があります。エンディングのディレクションは松村さんを信頼してお任せし、僕は着実にエンディングを迎えられるよう日々の運営に徹しています。無事にエンディングを迎えた後で堂々と泣くつもりでいます……!
清水:さまざまなイベントを通じてユーザーの皆さんとコミュニケーションを取りながら、皆さんの熱量に我々がどう応えていくかを考え抜いてきましたし、エンディングも『シノアリス』らしくユーザーの皆さまの期待がいい意味で裏切られるような仕掛けを考えました。キャンペーンをはじめ、お祭りのようにラストに向けて盛り上げて、走り抜けたいです。
『シノアリス』とともに過ごした記憶をこれからも大事にして欲しい
ーーユーザーの皆さまへの感謝の気持ちをお聞かせください。
堀:色々なことがありましたが、見放すことなく一緒にいてくれてありがとう、そんな風に思っています。不具合すらもネタにした3周年のキャンペーンも、結果、多くの方に喜んでいただけて、製作陣一同うれしかったですね。
清水:本当に『シノアリス』を愛してくれてありがとう、のひと言に尽きます。「見ナサイ!コレがシノアリスの死に様デス!キャンペーン」では、ユーザーの皆さまに楽しんでいただけるよう盛りだくさんな施策を用意してきたので、最後まで遊んでいただけていたらうれしいです。
松村:とにかく、キャラクターたちの最期をユーザーの皆さんにしっかりと見届けていただきたいです。サービス終了後には『シノアリス』は図鑑アプリ化し、獲得したキャラクターのジョブや、武器、何番目にエンディングを終えたか、などのプレイ記録や、他のユーザーの記録も閲覧できるようになります。ゲームは終了しても『シノアリス』とともに過ごした記憶をこれからも大事にしていただけたらうれしいです。
三浦:リリースから難産だった『シノアリス』が多くのユーザーの皆さんに受け入れられるのか、その後もハラハラしながらSNSの反応に触れてきましたが、想像以上に多くのユーザーさんが喜んでくださっているコメントが多く、コメントを目にするたびにやる気や勇気をもらっていました。ラストまで走り抜けられるのは、ユーザーの皆さんが近い距離で伴走してくださったからだと思っています。ありがとうございました!
前田:リリースから長く楽しんでくださった方が多く、ありがとうございましたという気持ちです。また、SNS上に『シノアリス』のお知らせやその解説、攻略情報などをアップしてくださる投稿には、ものすごく支えられました。本当に感謝しかありません。
『シノアリス』での経験から、さらに深く愛されるプロダクトを開発していく
ーー最後に、ポケラボとして今後の意気込みを教えてください!
前田:『シノアリス』の運営を通して、ゲームの世界観をしっかりとつくり込むことの意義を体感しました。その中で『シノアリス』のような尖った世界観をつくれるゲーム会社としてポケラボも成長したと思います。今後も『シノアリス』のユーザーの皆さんとの思い出を大切にしながら、世界観に没入できるような新しいゲームを生み出していきたいです。また、ポケラボと株式会社シャフトが運営している『アサルトリリィ』も同じくギルドを組んで楽しめるゲームになっていますので、ぜひ楽しんでいただけたらと思います!
三浦:ポケラボメンバーのほとんどが『シノアリス』に関わってきました。『シノアリス』で培ったマインドから生み出される新しい作品を楽しみにしていて欲しいです。また、ユーザーの皆さんに愛される作品をつくり続けるには新しい仲間を増やすことも重要だと考えています。
堀:今後の意気込みとしては、シノアリスのマインドを持つメンバーが仕掛ける、良い意味での裏切りに期待して欲しいですね。また、新しいことを仕掛けてみたい、ポケラボのメンバーになってみたい、そんな方はぜひ我々の仲間になっていただきたいです。
一同:これからも、ユーザーの皆さんに楽しんでいただける作品を生み出していきたいと思いますので、応援よろしくお願いします!
終始、大盛り上がりの座談会でした!