2010年より、毎年夏に行われてきた森ビルの『キッズワークショップ』。コロナ禍の影響で昨年に引き続きオンラインでの開催となり、グリーグループは「みんなで(バーチャル)世界旅行」を実施しました。“街づくり”というリアルな場とオンラインのバランス、そしてクロス・リアリティ(XR)を主戦場とするGREE VR Studio Laboratoryの取り組みを中心に、ディレクターの白井さんと、森ビルの井上さんにお話を伺いました。
「みんなで(バーチャル)世界旅行」とは・・・
地図を使ったARゲームで海外旅行に行く体験をお届けするオンラインコンテンツ。旅行のプランはチームになって目的地・空港・お土産等、ルートを相談しながら決めていきます。参加者は「アバター」となって、知らない言語・買い物・風景に触れながら、旅行を楽しむことができ、オンラインなので行き先は世界のどこでも可能。時間内に無事に帰国し、最後は、バーチャル上に再現された六本木「バーチャル六本木ヒルズ」で記念撮影を行います。
井上 瑞希:森ビル株式会社 タウンマネジメント事業部 運営部 六本木ヒルズ運営G
多くの物件の管理・運営を行う同社でも、六本木ヒルズのタウンマネジメントを担当。六本木ヒルズという“街”をどのように活性化することができるのかについて考え、各種イベントのほか、イルミネーションなどといった季節装飾も企画。
白井 暁彦:REALITY株式会社 GREE VR Studio Laboratory ディレクター/博士(工学)
GREE VR Studio Laboratoryで研究開発を担当。to C向けの「REALITY」とto B向けのXR事業の両方を行き来しながら、3〜5年後に必要となる新規事業に向けた研究開発活動を行う。
六本木ヒルズの“街づくり”。そして、グリーグループが参加する意義
ーーこの『キッズワークショップ』はどういったコンセプトで運営されているのでしょうか?
井上:六本木ヒルズはおよそ400件の地権者の方たちと一緒につくった場所で、これまでも自治会の方たちと協力して盆踊りや春まつりといったイベントで“街”のにぎわいを生み出し、育ててきました。同時に「オープンマインドな人を育む街」というコンセプトのもと『キッズワークショップ』は2010年からスタートし、六本木ヒルズなどに入っているテナントさんにご協力いただきながら、子どもたちがさまざまな体験をできる場として環境を提供してきました。
ーーグリーはいつごろからこのイベントに関わっていたのですか?
白井:2012年に初参加してから定期的に参加しています。当初は、子どもたちにインターネットの啓発教育を中心に行っていました。2018年には「ありえなLAB」というロケーション型アトラクションで月面環境をVRで体感するブースを出しました。これはただインターネットの教育としてではなく、子どもたちに最新の技術に触れてもらうことを目的としています。このイベントへの参加は、サービスに触れてもらいインターネットを理解してもらうサステナビリティ活動でもありますが、そこに最先端の技術を投下することで、事業側ではつかみきれない貴重な情報が獲得できるという側面もあります。これからユーザーになる小学生やその親御さんの感覚をリサーチしていく役割も担っているんです。
運営の意志と最先端の技術が生み出す“大人の本気”
ーーコンテンツを見てみると、アクティビティや職業体験を通じた学びの場になっていて、知的好奇心の旺盛な子どもたちにはぴったりですね。
井上:元々は職業体験の要素が大きかったキッズワークショップですが、2015年からはVRやバイオなど最先端技術に触れる体験の場も増え変化していきました。年々、期待感は上がっているような気がしますね。さらに、オンライン化によって距離の壁がなくなったことも、要因のひとつだと思います。日本だけでなく、遠くカリフォルニアの方も参加されていました。
白井:そうですね、日本国内でも首都圏以外のお子さんも多く参加されました。2020年の3月くらいに当時の森ビルの担当者の方との打ち合わせで、「新型コロナウイルス感染症拡大を前に、“やれる”“やれない”という軸で検討するのはやめましょう」とお伝えしたんです。参加者の皆さんからみて『明らかに安全で安心』という状況にならない限り、物理開催は難しいと考え、私たちはオンラインでやる前提で行きますと。
井上:そのご提案に前任者はすごく戸惑ったそうです(笑)。“街づくり”はリアルでないとできないだろうという思いもあったでしょうし。
白井:コロナ禍で安全に行うということはもちろんですが、僕たちは『REALITY』によるアバターやライブエンタメを推進していたので、『やることはどんな形式でも変わらない』とお伝えしました。今年のコンセプトは離れた場所にいる子どもたちが『みんなで(実質上)一緒に世界旅行をする』という『メタバース化』の検証を含めていました。「メタバース」と子どもたちに伝えても難しく感じるかもしれませんが、参加した子どもたちは「(ひとり旅をするのではなく)100人の友達と遠足に行って、オニギリを一緒に食べたい感じ」という世界観で理解したようです。
リアルとバーチャルがクロスする、オンラインならではの体験の場を
ーー「みんなで(バーチャル)世界旅行」の実施にあたって工夫したポイントはありますか?
白井:抽選に当たった人へ、事前に「どの国にいきたいですか?どんなアバターがいいですか?」といった簡単なアンケートをお願いしました。実際のワークショップでも意欲的に参加されていて、アンケートで前のめり度がよく分かりました。
自宅のパソコンから、バーチャルの世界旅行を楽しむ子供たち
井上:オンラインだと、実際に始まるまでどれくらいのモチベーションで臨んでいるのかが分かりません。イベント前に参加者の方とやり取りできたことで、その辺りの不安が払拭できましたね。また、今回のワークショップでとても感謝しているのは、海外旅行の起点を六本木ヒルズにしてくださったことです。六本木ヒルズのバス停からバスに乗って空港に行き、そこから飛行機で海外へ出て行く。まずは六本木ヒルズに集まってから旅に出ていくというコースになっていて、このイベントとの関係性が明確なことでした。通常のオンラインワークショップだと、六本木ヒルズがなくても成立してしまう。そこが私たちの大きな課題だったのですが見事な解決策の一つを提案してくださいました。
ーーこうした六本木ヒルズとのつながりもこだわったポイントなんですね。
白井:今回のコンテンツは昨年のキッズワークショップで六本木ヒルズの屋上からのパノラマ写真をいただいたときにひらめきました。その上でオンラインでのリアリティって何だろうと考えたときに、国際会議などで海外へ発表に行く際に、機材を抱えて六本木ヒルズから空港に向かってバスに乗っていったのを思い出したんです。これを追体験しようと。実際、自分の子どもに聞いてみても空港の存在がぼんやりしていて、どうやって海外に行くのかの流れがよく分かっていないんですね。それで、直接外国に飛ぶのではなく、行程を追体験するというリアリズムを生かす設計にしました。
六本木ヒルズと子どもたちの“縁結び”に貢献していく
ーー実際に体験した子どもたちの反応はどうでしたか?
井上:終了後のアンケートはほぼ全員大満足の結果でした。子どもたちがナビゲーターのお兄さんにすっかり懐いて、タメ口で話していたのも印象的でしたね(笑)。空港に着くまで少しタイムラグがあるんですけれど、お兄さんが「みんな着いた?」って聞くと、子どもたちが「まだ着かなーい!」って。グループ内で仲間意識が醸成されていて、おもしろいなと思いました。
白井:今回のナビゲーターは、GREE VR Studio Laboratoryのインターン生で、さまざまな箇所で若い大学生らしい発想で開発や進行を行ってくれました。プレイヤーである小学生〜中学生にあわせ、「中性的なかわいらしさ」と「ちょっと背伸びした修学旅行感」で企画を設計しています。初対面のメンバーで旅行に行ってもすぐに打ち解けられたのは「アバター」ならではだったからかもしれません。
ーー最後に、『キッズワークショップ』や子どもたちへの学びの提供について描いている未来像をお聞かせください。
井上:『キッズワークショップ』は子どもたちと六本木ヒルズの“縁”を結ぶための種まきとしても、これからも継続していきます。子どもの頃、親に連れられて六本木ヒルズに遊びに来ていたのが、中高生になると急に来なくなり、大人になって久しぶりにまた訪れる……といった感じで、六本木ヒルズとの関係性にブランクができてしまうことも多いんですね。未来を担う子どもたちに向けて六本木ヒルズという街を活かした他にはない「学び」の機会を提供し、知的好奇心を刺激して成長に影響を与える存在であるために、できることをこれからも考えていきたいと思います。
白井:僕らにとって「子供のころ、はじめて遊んだゲーム」みたいに、まずは『なんだかすごい体験をしたのだけど、あれって何なんだっけ?』という衝撃的な体験の記憶がしっかり残ってくれることが大切だと思っています。研究開発部門としては、その驚きや意味、言語化といった価値の発見や観察を通した確認が研究となります。今は『REALITY』の成長のためにも、メタバースの体験開発として急速に仕事が回転しています。これからも『キッズワークショップ』をはじめ、世界中の子どもたちの未来にどういった貢献ができるだろうか、常に最新・最先端を考えながら関わっていければと思います。
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